NDロードスターで学ぶ「ギア比」と「最終減速比(ファイナル)」

2018/10/06


今や多段ATといえば8速以上を指し、メルセデスベンツやジャガー、ジープなどに搭載されている9速ATも珍しくない存在になってきた。

2017年あたりからはホンダやレクサスで10速ATが搭載されることが話題になるなど多段化の波はまだまだ続きそうだ。今回はその多段化のメリットを理解するために「ギヤ比」と「最終減速比(ファイナル)」について解説する。

【動画】NDロードスターで学ぶ「ギア比」と「最終減速比(ファイナル)」



★ギア比



・「ギア比」も「最終減速比(ファイルナル)」も出力側(タイヤ)が1回転するのにエンジンが何回転するかの比率
・エンジンの回転数とタイヤの回転数の関係は、「ギア比」×「ファイナル」。
・例えばBMW M240iで1速の場合「4.110」×「3.077」で約12.6。エンジンが12.6回転するとタイヤが1回転。6速だとエンジンが2.6回転でタイヤが1回転となる。

・ギヤ比の数値が大きいほど(相対的に)強いトルクを発生させるコトができる
・ギア比が1.000よりも小さいことをATでは「オーバードライブ」、MTでは「オーバートップ」といい、主に高速道路での燃費対策のギアと考えてよい。
・隣のギヤとの「ギア比」の差が大きいと加速の際のシフトアップでギクシャクしたり、シフトダウンのブリッピング量が多くなったりと扱いにくくなる。比較対象と比べてその差が大きいことを「ワイドレシオ」という。

【動画】MT操作で最も難しいのは「高回転で1速から2速のシフトアップ」

・ワイドレシオではシフトアップの際に回転が大きく落ちるためパワーバンドを外してしまうことがある。そういった問題を解決するためにクロスミッションを導入してギア比の差を小さく(クロスレシオ化)させる。
・例えばM240iの1速は4.110で2速が2.315なのでその差は約1.78倍。2速/3速比は1.50倍となり、一般的なスポーツカーと比べるとやや「ワイドレシオ」となる。
・1速のギア比をトップギアのギア比で割ったものを「レシオカバレッジ」といい、その数値が大きいほど「発進から高速巡航」まで優れている傾向にある。


★最終減速比(ファイナル)


・ファイナルは
 ▼エンジン
 ▼トランスミッション
 ▼プロペラシャフト ※FRなどのクルマ
 ▼デフ
 ▼ドライブシャフト
 ▼タイヤ
と動力が伝わる中で、デフ内のギア比であり、全てのギアに適用されるためそのクルマのキャラクターを示すものといえる。
・一般的にファイナルの数値を大きくすると、エンジン回転数に対してタイヤが少ない回転となるため「ローギアード」と呼ばれる。よりエンジンの回転数を上げることができる。NAスポーツカーに多い。
・逆にファイナルの数値を小さくすれば、「ハイギアード」と呼ばれ最高速重視のクルマや燃費重視の普通の乗用車に多い。


★具体例(BMW編)


BMWのMT搭載車でその特色をみてみると、


・M240iとM2/M4はギア比は全く同じだが、M2/M4のほうがファイナルがローギアードであるためM240iに対して「高回転型」となっている。
・「スポーツセダン」の320iは燃費や静粛性を重視して、5-6速をオーバートップギアとしている。
・そのためM240iよりもさらにワイドレシオになっており、1-2-3速側のギア比が離れてしまっている。
・320iのレシオカバレッジはM240iの約4.9に対して約6.0
・参考までにプジョー308GTiとVWゴルフGTIも掲載


★具体例(国産ライトウェイト編)


次に本題のNDロードスターが所属するこのカテゴリー。


・86とNCロードスターはほぼ同じで「やや高回転型」
・NCとRX-8はプラットフォームを共有してるだけあってギア比はほぼ同じだがRX-8のほうがファイナルが高くて「超高回転型」になっている。
・上記3台は5速が直結ギアで、6速がオーバートップギア。
・それに対しシビックと同タイプR(FK8)とスイスポは5-6速がオーバートップギアとなっているが、基本的な特性は似かよっている。
・シビックよりもFK8のほうが若干クロスレシオ設定になっている

そして、NDロードスターであるが

・なんと!6速が直結ギアとなっておりオーバートップギアが無い
・その分1速のギア比が「5.000」を超え、全体的にギア比が高いのもあり、ファイナルをかなりのハイギアードとして調整している。
・結果的には平均的な「ロー/ハイギアード」になっていて、むしろNCや86のほうが高回転型となっている。
・レシオカバレッジもNCと同等でクロスレシオという訳でもない。
・では何故そんなコトをしてるかというと「軽量化」のため
・ファイナルギア比が低ければ、「リングギア」が小さくなり、重たいデフケースを小型化するコトができて軽量化につながる。
・また、6速直結にすることで「チェンジロッド上の反転機構が不要・・」関連での軽量化もされているようだが本稿では割愛させていただく


★具体例(クロスレシオ編)


そしてメーカーが胸張って「クロスレシオ6速MT」とアピールしているこの3台。


・本稿で紹介する6速MT車の5速のギア比は「1.0前後」で各車、大差が無いため、1速のギア比が低ければ低いほどクロスレシオになっている傾向にある。
・これまでに紹介したクルマは1速のギア比が「4.0前後」であったが、この3台は「3.0前半」となっていて、特に1-2速がクロスレシオになっている。
・中でもS2000は4-5速、5-6速もクロスレシオ設定となっておりレシオカバレッジが3台の中でもっとも低い。
 ▼メガーヌRS:4.8
 ▼S2000:3.9
 ▼FD2:4.4
・メガーヌRSとS2000のファイナルは他と比べて平均的なため、ギア比が低い分、かなりの「ハイギアード」になっている。
・一方、FD2はファイナルが異常に高く「ローギアード」で、RX-8に迫るほどの「超高回転型」となっている。


★具体例(WRC編)


最後にラリー車3台のご紹介。

・3台ともに今回の登場したクルマの中でトップクラスのクロスレシオ設定
・レシオカバレッジは下記のとおり
 ▼WRX:4.3
 ▼エボX:3.8
 ▼ゴルフR:3.7
・ゴルフRは1-2速、2-3速はそこまでクロスレシオではないが、3-4/4-5/5-6速までを含めるとS2000並のクロスレシオとなっている。
・3台とも「ややハイギアード」なくらいで最高速度をそれほど重視していない


★ポジショニングマップ


1、横軸が「ワイドレシオ」<->「クロスレシオ」
2、縦軸が「ローギアード」<->「ハイギアード」 として、ポジショニングマップにすると下記のようになる。


前提としては、
・「ワイド/クロス」は1-2速と2-3速の「ギア比離れ率」の平均値で判断
・「ロー/ハイ」は1-2-3速あたりの「ギア比」×「ファイナル」で判断
・「ロー/ハイ」は「タイヤ外径」は考慮していない
・このマップでの「ローギアード(高回転型)」と「エンジンがどこまで回るか?」は別カテゴリー。


★最後に


こうして分析してみると、たった7つの数値(1-6速のギア比とファイナル)でそのクルマの特性が見えてくるのはとても面白い。特にNDロードスターのギア比とその理由には衝撃を受けたが、あんなことはRX-8とプラットフォームを共有していたNCには絶対にできないコトであり、「原点回帰」として徹底的に軽量化に取り組んだMAZDAのエンジニアの方には頭が下がる。

NDロードスターの「お気に入りポイント」がまた1つ増えた。
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